そのアプリ、本当に作る必要ありますか
書いた人: 服部健太(一宮ではかぜ整体院を経営)
「これ、アプリにしたら楽になりますよね」。店主の方からそう相談されることが、月に何度かあります。手書きの台帳とか、毎週やっている集計とか、面倒な作業の話をしているうちに、だんだん目が輝いてくる。あの感じ、私はよくわかります。自分の店のために業務アプリ10本以上を作ってきた人間なので。
その上で正直に言うと、相談されたもののうちいくつかは、作らないほうが早く終わります。
作る側の楽しさを知っているぶん、私はここで一度ブレーキを踏むようにしています。
分かれ目は「困っているのが自分だけか」
内製するか、既にあるサービスを使うか。判断の軸は、技術的な難しさではないと思っています。見るべきなのは、その困りごとが世の中で共通のものか、自分の店だけの事情かというところです。
予約を受ける。会計をする。シフトを組む。この手の作業は、業種が違っても形がよく似ています。似ているから、それ向けのサービスが世の中にたくさんあって、値段もこなれていて、しかも自分が寝ているあいだにも改良されていく。ここを自作すると、機能で追いつけないうえに、直す手間が毎年のしかかってきます。
反対に、自分の店だけの数え方や順番は、既製品の型に入りません。私の整体院では、先にまとめてお代をいただいて、来ていただくたびに少しずつ消し込んでいく形の記録が必要でした。会計ソフトの標準の入れ物にどうしても収まらなくて、これは自分で作りました。
逆の判断をしたこともあります。施術の記録を残す仕組みを自作しようとして、設計まで書いたところで手を止めました。すでに契約していた予約システムの中に、ほぼ同じことができる機能があったからです。作りかけを捨てるのは惜しかったのですが、捨てて正解でした。作っていたら、更新も不具合も全部こちらの仕事になっていたはずです。
今日からできる最初の一歩
④は、私が実際にやらかしたところです。当時のお店の勤怠と給与の計算をきれいに自動化したのですが、店の形が変わって、今はもう使っていません。動くものが手元に残っているのに、使う場面のほうが先に消えました。
- ① 困りごとを一文で書く。「◯◯の集計に毎週2時間かかっている」くらいの粒度で。この一文が書けないときは、まだ作る段階ではありません
- ② その一文を、そのまま検索窓に入れてみる。同じ悩み向けのサービスが並んだら、まず無料で使える範囲だけ触ってみる。触る前に判断しないのがコツです
- ③ 触って「ここだけ合わない」が出てきたら、その“ここだけ”を書き出す。合わないのが端っこの一部なら、こちらのやり方を寄せたほうが安い。半分以上が合わないなら、はじめて自作の候補になります
- ④ 作ると決める前に、来年の今ごろもこの作業が残っているかを自分に聞く。近いうちに無くなる作業に道具を建てると、道具だけが残ります
入り口の先へ
作るか買うかで悩んでいる時点では、まだ悩みが大きすぎることが多いようです。「毎週の集計が面倒」を「アプリが要る」に一段飛ばしにすると、だいたい作りすぎます。あいだにもう一段、どの作業のどこが重いのかを刻む工程を入れると、既製で足りる部分と、自分の店に固有の部分が分かれて見えてきます。
とはいえ、この切り分けを一人でやるのは案外しんどいところです。20分の無料AI診断では、いま抱えている作業を一緒に並べて、既にある道具で片づくもの・手順を変えれば消えるもの・作る価値があるものに分けるところまでを一緒にやっています。作らずに済んだ、が結論になる日もあります。